Microsoft SQL Server 2016 実践シリーズ （HTML 版）
「SQL Server 2016 への移行とアップグレードの実践」

1.4　SQL Server 2016 へのアップグレードと移行の概要

「アップグレード」（Upgrade）と「移行」（マイグレーション：Migration）は、どちらも似たような用語ですが、厳密には、旧システム環境を残すかどうか（サイド バイ サイドで、以前のバージョンの SQL Server と SQL Server 2016 を並列実行できるようにするかどうか）という違いがあります。次のように、アップグレードの場合は旧システム環境を残さず、移行の場合は旧システム環境を残します。

アップグレードは、旧システム環境を残さずに、以前のバージョンの SQL Server（SQL Server 2008 や 2008 R2／2012／2014）を、SQL Server 2016 に完全に置き換えます（上書きします）。なお、同一マシン内でのアップグレードは、「インプレース アップグレード」とも呼ばれています。

一方、移行（マイグレーション）では、旧システム環境（以前の SQL Server）とは別に、新しい環境（SQL Server 2016）を作成して、そこにデータベースや各種機能を移行します。

◆ アップグレード パス

SQL Server 2016 は、以下のバージョンの SQL Server からのアップグレード（インプレース アップグレード）を行うことができます。

• SQL Server 2008 SP4 以降
• SQL Server 2008 R2 SP3 以降
• SQL Server 2012 SP2 以降
• SQL Server 2014 RTM 以降

SQL Server 2016 からは、SQL Server 2005 からのインプレース アップグレードがサポートされなくなりました（第5章で紹介するデータベースの移行は可能です）。

SQL Server 2008 は SP4、SQL Server 2008 R2 は SP3、SQL Server 2012 は SP2 以降を適用しておくことで、インプレース アップグレードを行うことができます。

なお、古いバージョンの SQL Server 上で、ユーザー データベースの互換性レベルが 90（SQL Server 2005 レベル）以下のものを利用している場合は、アップグレード時に、そのデータベースの互換性レベルが 100（SQL Server 2008 レベル）に自動的に上がりますが、詳しくは第３章で説明します。

アップグレード時にエディションを変更する場合は、基本的には上位互換（Standard エディションを Enterprise エディションへ変更するなど、上位のエディションへの変更）であれば問題ありません。一方、下位のエディションへの変更（Enterprise エディションを Standard エディションへ変更するなど）はサポートされていません。

クロス プラットフォーム（32ビットから 64ビットへの変更）に関しては、インプレース アップグレードがサポートされていないので、SQL Server 2016 の新規インストールを行って、データベースの移行（マイグレーション）を行う必要があります。データベースの移行であれば、32ビットも 64ビットも関係ありません（移行の詳細は、第５章で説明します）

なお、Microsoft Azure などのクラウド環境への変更を行う場合にも、第５章の「移行」の手順で行うことができます。完全に別のサーバー（同じ名前の別サーバーではなく、異なる名前の別サーバー）への変更を行う場合には、移行を利用するようにします（移行の手順も簡単です）。

その他のアップグレード条件に関しては、オンライン ブックの以下のトピックに記載されているので、一読しておくことをお勧めします。

SQL Server 2016 へのアップグレード サポートされているバージョンとエディションのアップグレード
http://msdn.microsoft.com/ja-jp/library/ms143393.aspx

◆ 移行可能なデータベース

SQL Server 2016 への移行（マイグレーション）が可能なデータベースは、次のとおりです。

• SQL Server 2005 上のデータベース
• SQL Server 2008 上のデータベース
• SQL Server 2008 R2 上のデータベース
• SQL Server 2012 上のデータベース
• SQL Server 2014 上のデータベース

インプレース アップグレードは SQL Server 2008 以上が対象でしたが、移行（マイグレーション）であれば、SQL Server 2005 のデータベースを SQL Server 2016 に移行することもできます。

データベースの移行は、標準のバックアップと復元機能を利用することで、簡単に行うことができます。移行元の SQL Server 上でデータベースを完全バックアップして、それを SQL Server 2016 上で復元（リストア）するだけで、データベースの移行が完了です（2つのステートメントを実行するだけで完了します）。

例えば、SQL Server 2005 上でデータベースの完全バックアップを実行する場合は、次のように BACKUP DATABASE ステートメントを実行します。

このバックアップ ファイル（.bak）を、移行先となる SQL Server 2016 上で復元すれば、データベースの移行が完了です。復元は、次のように RESTORE DATABASE ステートメントを実行するだけです。

このように、SQL Server 2005 上で取得したバックアップは、SQL Server 2016 上にも簡単に復元することができます。これだけの操作で、テーブル内のデータが復元されることはもちろん、インデックスやビュー、ストアド プロシージャ、制約、トリガー、ユーザー定義関数、SQL CLR オブジェクト、フルテキスト インデックス、暗号化のための対称キー／非対称キー、データ パーティション、データベースの設定オプションなど、データベース内のすべてのオブジェクトを復元できます。

SQL Server 2005 のデータベースを復元した場合には、データベースの互換性レベルが 100（SQL Server 2008 レベル）に自動的に上がったり、データベース ユーザーとオブジェクト権限に関しては、元の環境と同じように利用するためには追加手順が必要になったりしますが、ほとんどのオブジェクトを移行元と同じように利用することができます（追加手順が必要なオブジェクトについては、第5章で詳しく説明しています）。

このように SQL Server は、データベースの移行を非常に簡単に行うことができ、SQL Server 2005 や 2008、2008 R2、2012、2014 で利用していたデータベースを、SQL Server 2016 上に簡単に復元／移行することができます。

バックアップと復元機能を利用すれば、移行元が 32ビットで、移行先が 64ビットでも、移行元と移行先の OS が違っても、移行先がクラウド（Mirosoft Azure 上の仮想マシン）であったとしても、関係なくデータベースの移行を行うことができます。

既存の SQL Server が 32ビットの場合や、SQL Server 2005 を利用している場合には、インプレース アップグレードがサポートされていないので、バックアップと復元機能を利用して、移行をするようにします。

◆ SQL Server 2016 をインストール可能な OS

SQL Server 2016 は、以下の OS にインストールすることができます（アップグレード時も条件は同じです）。

• Windows Server 2012（X64）
• Windows Server 2012 R2（X64）＋ KB 2919355
• Windows Server 2016（X64）

以前の SQL Server との大きな違いは、SQL Server 2016 が X64（64ビット版）の OS のみでサポートされるようになったことと、Windows Server 2012 以降の OS が必要になることです。SQL Server 2014 のときは Windows Server 2008 SP2 以降の OS がサポートされていましたが、SQL Server 2016 から変更になりました。

したがって、SQL Server 2008 や 2008 R2、2012、2014 を、Windows Server 2003 や 2003 R2、2008、2008 R2 などで動作させている場合には、OS を Windows Server 2012 以降にアップグレードしてから、SQL Server をアップグレードする必要があります（詳しくは、第３章で説明します）。

また、OS を Windows Server 2012 以上にアップグレードする場合は、SQL Server の Service Pack 要件が次のようにあります。

SQL Server 2008 を利用している場合は、Windows Server 2012 にアップグレードする前に、SP3 以上、SQL Server 2016 にアップグレードする前に SP4 以上を適用しておく必要があります。また、Windows Server 2016 からは、SQL Server 2008 および 2008 R2 が未サポートになりました。これについては、以下の KB 2681562 が参考になると思います。

Using SQL Server in Windows 8 and later versions of Windows operating system
http://support.microsoft.com/en-us/kb/2681562